ページ

2014/02/14

一人旅では味わえない経験の出来た街、バンダアチェ

当初は予定していなかったインドネシアに行くことになったのは、シドニー編でかいた通り、シドニー工科大学(UTS)のJoanneやVidaに話を聞いた際に誘われたWorkshopに参加するためだった。具体的にどのようなWorkshopかというと2004年末に起きたスマトラ島沖地震に伴う津波被害からの復興に取り組んでいるBanda Aceh(バンダアチェ)という街を対象に、現地カルチャーを踏まえながら復興に資するデザインをWorkshopとして行おうというものだった。

主催者はJoanneの元でU.Labの一期生(?)で、UTS卒業後もUTSのTAとしてU.LabをサポートしているVida。彼女はバンダアチェ出身ということで、自分の故郷に貢献したいという想いから企画されたWorkshopなのである。

今回のWorkshopにはUTSのJoanneやVidaを紹介してくれたサークルの大先輩であり建築家の山代さんとその事務所スタッフの久松さんも日本から参加するということで、クアラルンプールで合流してバンダアチェ空港に到着。

バンダアチェ空港はモスク風の建築

先行き不安になったBanda Acehの概要

さて、バンダアチェという名前まではあまり聞き覚えのない人でもスマトラ島沖地震で津波の被害が甚大だったということはうっすらと記憶にある人も多いのではないだろうか?
バンダアチェという街はスマトラ島の最北端に位置し、ペナン島の真西あたりに位置するエリアである。


Workshopに参加する前にバンダアチェについて予習を始めたところ、次のようなことが分かった。
  • かつてはインド政府軍とアチェ独立解放軍が対立していたが、津波によって壊滅的な状況になったため和平協定が結ばれ、その後独立放棄・武装解除に応じ、現在はインドネシアの州であることに同意している。
  • インドネシアの中でもかなり敬虔なイスラム教徒の多いエリアであり、イスラム警察が戒律を破る人を取り締まっている。
    • イスラム教は婚約前の男女が1対1で合うことを禁止しており、人前で目立つ(聴衆の注目を集める等)行為も禁止されており、かつてはパンクミュージックのコンサートが中止にされたり、映画館/クラブ/ディスコ/カラオケなんかも無い。
  • ローカルの人々はイスラム法は尊重しているものの、現在の政府の方針には懐疑的な部分も感じている人がいる。
  • 文化的にはコーヒーの産地ということもあり、街中の至るところにコーヒーショップがあり、老若男女問わずコーヒーショップに集まって交流するというカルチャー(Kopi Culuture)がある。
これだけ見ていると、治安も良くなさそうだし、イスラム戒律の厳格なエリアにも初めて行くし、ということで不安になっていたのだけど、行ってみてこの予想は大きく覆された。まさに百聞は一見にしかずとはこのこと。

不安を解消してくれた参加メンバー

今回のWorkshopに参加するメンバーはUTSの学生が40%強、バンダアチェの大学生が40%強、僕も含めた日本人メンバーが3名。バンダアチェの学生はヒジャップといわれるスカーフ状のものを頭につけ、基本的には肌の露出を最小限に抑えており、シドニーからの参加者も基本的にはその慣習に習ってヒジャップを身につけている。男性もあまり短パン等ははかない様子。

Workshopのオリエンテーションで一同に会するメンバー
このメンバー構成が非常に良かった。というのも、アチェの大学生は英語を勉強しているので、メンバー間の会話は基本的に英語で行われるのだけれど、現地のお店に行くともちろん英語は通じないので、学生たちが常に通訳をしてくれるので、コミュニケーションに不自由しないし、現地の疑問点についても気軽に聞くことが出来るので、現地語が話せないことによる不自由さをほぼ感じることがなかった。
食事も基本的にはローカルレストランやストリートフードを教えてもらって一緒に食べたり、コーヒーショップにも一緒に行ってお話したりと長い時間一緒にいることが出来たのでとても仲良くなれた。

アチェで最もポピュラーなコーヒーの飲み方は練乳を入れるのです。
コーヒーショップでは軽食が出てきて食べた分だけ請求される。
コーヒーは纏めて抽出します。職人の腕の見せどころ?
アチェの大学生達とコーヒーショップにて。
アチェの料理は基本的に辛い。でもとても美味しい。
鶏に魚に野菜にヘルシーです。
Vidaのお母さんの手作り料理を頂きました。
一つのプレートに盛ったら山盛りになりました。
Vidaのお宅で円座を組んで食事&トーク
(この日は外国人メンバーのみ)
Workshop前半は外国人メンバーを中心に街の散策や津波ミュージアムの見学をしたのだけど、まず治安はかなり良さそう。夜遅くでも結構みんな出歩いているし、バス移動していたとはいえ身の危険を感じる場面はほぼ無かった。

日本とは異なる災害への向き合い方

そして、津波の被害を見て回ったのだけど、第一の感想は建築物がもう少ししっかりしていればそこまでの被害になっていなかったのではないかな?というもので、コンクリートでしっかりと建てられた建築物はそこまでの被害を受けていなかったように感じた。

東北の津波でも同じような状況だったけど、
建築物の上に舟が乗ってしまった跡地。
但し、意外とコンクリートの壁なんかは残ってる。
津波発生当時のグランド・モスク前の被害状況
(グランドモスクは大きな被災無さそう)
そして、日本でもダークツーリズム等の議論が一時期起こっていたのだけど、アチェの人々は「辛い過去を思い出したくない。」というよりも、「この甚大な被害状況をみんなが忘れないためにも形として残したい。」という考えで、Tsunami Museumを作ったりして被害がどのようなものであったかを展示している。

病院跡地。多くの犠牲者が収容され、死亡者は埋葬もされている場所。
病院跡地の外観。窓や壁が壊れたままの状態に。
病院内部も瓦礫等をそのままに残している。
新しく建てられた建築物は逃げやすいようにスロープ上の階段を設置。
流されてきたヘリコプターも無残な姿のまま残されている。
アチェでもTsunamiというワードが使われてます。
津波(波?)をイメージしてデザインされたMuseum
東北大震災で津波を経験したわけではないので、あまり適当なことは言えないのだけど、小さい頃に阪神淡路大震災を経験したことを踏まえて考えると、あの時の辛さとか大変さを忘れてしまって何事もなかったかのような日常生活を送っている関西の人って結構多いのではないだろうか?

直後にこのような展示施設を作るべきか?と問われると精神的苦痛を感じる方もいるだろうし、なんともいえないのだけれど、アチェでの展示物を見てみて、人々の熱(人々の興味関心)が保たれている段階で、将来的にこういうものを残そうと決めておくことは悪くないのかなとも感じた。

ムスリムの人々の信仰とそれ以外の日常生活のギャップ

冒頭に書いたとおり、アチェでは厳格なムスリムが多いということもあり、Workshopの最中でも1日5回の礼拝の時間になると、街中でアザーンが鳴り響き、アチェの人々はみんな礼拝堂に向かいいなくなってしまう。といっても礼拝は細かく時間が決まっているのかと思いきや、一定の時間内に行えばよいというものらしい。

男性の礼拝を見る機会は無かったのだけど、女性は礼拝用に服装も着替えるようでいつも持ち歩いているのか、特定の場所に保管してるのか、みんなでシェアするものが礼拝堂に置かれているのかは定かではない。

オーストラリア在住のインドネシア人の方々も仕事中や授業中でも礼拝に行っているそうです。知らなかった…。日本だとムスリムの方々を殆ど見かけないですもんね。

このように厳格なイスラム法に従って生活してるので、人々の性格なんかも真面目な感じなのかと思いきや、イスラム法から外れた事に関しては結構大雑把なのである。
時間の感覚も緩いし、建築物のデザインなんかを見ても中国の地方都市に似てて細部が適当だったりする。

教養不足で的外れな感想かもしれないけど、ムハンマドがこういう性格の民を律するためにイスラム法を作っているのだとしたら、ある意味機能していたのかもしれないなぁなんて思ったり。
(逆にイスラム法が厳しいのでそれ以外の部分が緩くなったという因果関係が逆の可能性もありますが。)

想像と違ったアチェの若者(ムスリムの若者?)

当初想定していたアチェの人々というのは敬虔なムスリムというイメージが先行して、大人しくて人見知りな感じなんじゃないかな?と、思っていたのだけどこれは完全に予想が裏切られた。

参加メンバーは英語が話したい・外国人と交流したいという気持ちもあるのだろうけど、いつも名前や、日本の事情、アチェとの違いなんかについてとてもフレンドリーに話しかけてくれて、寧ろ人懐こいという印象だった。

子供たちの笑顔はどこでも素敵
Vidaのお父さんとお世話になったドライバーさん
同じグループだったKing(ニックネーム)

コーヒーショップや飲食店で出会う人々も排他的な感じではなくフレンドリーな感じだったのでアチェの人々全般的にそういう感じなのだろう。

そしてもう一つ気になる恋愛事情についてもアチェの女子大生に聞いてみました。

アチェの女子大生はみんなとってもCuteでした。
彼女達曰く、男女一対一で会ってはいけないというのもビジネス的な理由なら問題ないらしい。そして、「もし好きな人が出来たらどうするの?」と聞いてみたら、「結婚したいと思えるほどじゃなければ、ノーアクション。結婚したいと思ったら両親に相談して、両親が先方の両親に話をつけにいくよ。それでも学歴やら家柄やらで両親同士の話が合わなければなかったことになるけどね。」
とのこと。

文化の違いとはいえ、悲しい思いをすることもあるだろうし、結婚してみたら相性合わなかったなんてこともあるんじゃないかと思ったものの、日本でもちょっと前までは同じような環境だったからそんなに問題ないのかもしれない。
(フェミニストの方に聞かれたら怒られそうですが…)

Kopi Cultureの面白さ

そしてもう一つの特徴でもあるKopi Cultureですが、「みんなコーヒーショップでどんな話をしてるの?」と聞いてみたところ、「将来のキャリアの話やイスラム法や政治の話をすることが多いかな。」と返ってきたので、「日本だと、政治・宗教・野球の話は論理的な会話が出来ず人間関係が壊れる可能性が高いから出来るだけしないようにって教えられるんだけど、みんな口論になったりしないの?」と聞いてみたら、「うーん、議論はするけど口論にはならないかなぁ。」とのこと。

かなりセンシティブな話だと思うのにこれはこれで凄いことだなと強く印象に残ってる。

オーストラリア人の笑顔とスモールトーク

もう一つ今回のバンダアチェのworkshopに参加して印象に残っているのはオーストラリア人の笑顔とスモールトーク力。

基本的に各地への移動はミニバスだったのだけど、このミニバスにオーストラリア人10人ほどと日本人3人で乗っていた。

ミニバスの中はこんな様子
アメリカ人もそうなのかもしれないけど、いつでも楽しく話をして笑っている。日本人の感覚からすると、ちょっと疲れてる時とか考え事してる時って自分の世界に入って話しかけないでオーラを出すことも多いと思うのだけど、オーストラリア人のメンバーにそんな時間は無かった。
話してる内容はそんなに大したことじゃないんだけどいつも話題を振ってきて笑顔で会話している。

どこでもふざけあってるし(大学生だから?)
いつも楽しそうにスモールトークしてる
この笑顔って欧米人はよく見せると思うのだけど、とても良い効果があるなと思うようになった。ニコっと笑顔を見せると相手も笑顔になるし、例えそれが作り笑いや社交辞令だとしても身体のアクションに心も連動して少し良い気分になってくる気がする。
日本にいると街中で笑ってる人を見かけることは余りないと思うのだけど、笑顔がもっと増えるとみんなの幸福度もあがるんじゃないかな、と思ったり。

デザインシンキングの手法

最後にデザインシンキングについても少し触れたい。

今回のworkshopでは時間配分の関係もあり、結果的にあまり深くデザインシンキングの手法を学ぶ事は出来なかったのだけど、幾つか「おっ」と感じたことがあった。

色んなフレームワークがあるのだと思うのだけど、印象に残っているのは5×5というものがあって、5つのプロセスを5分間ずつの時間で区切って行うというもの。日本に帰って資料を読めば細かなプロセスが思い出せると思うのだけど、少しうろ覚えの内容を伝えると、初めにある課題に関連したアイデアの発散のプロセスがあり、それを抽象化したり、絞り込んだりして、最終的には具体的な解決策を決めるというもの。

Digital Technologyというテーマでアイデア発散中
みんなでディスカッション
この限られた時間という制約の中でブレストをするというのは結構いいのではないかと思った。最終的には時間をかけて詰める必要があると思うのだけど、時間の制約があることによって、余計なことを考えられなくなるのでシンプルではあるものの、いろんな視点でアイデアが出てくる。

そしてもう一つ印象に残っているのはプレゼンテーション。ビジネスの世界では(といってもマーケティングや広告系は分からないのですが)プレゼンテーションってスライドを準備して、それを見せながら話すという事が多いと思うのだけど、演劇や歌でコンテンツを伝えるということが結構一般的みたいで考えさせられた。

演劇の小道具もたくさん準備されてました
壁に貼られたプレゼン資料と合わせて寸劇
アチェのオフィシャルツアーガイドに扮する女の子
検討プロセスで使った資料なんかも上手くディスプレイしてます
というのもコンサルタント時代は如何に説得力のあるプレゼンテーションをするかということに重点を置いて、ロジカルであることと合わせて共感を得やすいストーリーやチャートの構成を考えて作り込んで行く。もちろんそのストーリーの展開には喜劇的/悲劇的な比喩や類似事例なんかを見せたりということもある。

演劇や歌を使って伝えるというのは、まさにそのようなコンセプトを抽象化しながら伝えるということだなぁと思うし、コンテンツを作り込むという上ではスライド作成以上にクリエイティブな労力もスキルも求められるのだけど、ハマれば凄い説得力を持つということ。

そういう意味では最近デザインの力というのが注目されてきているような気がするのだけど、時代がそういう力の必要性に気付いてきたのかなと実感した。

オーストラリア人が久しぶりに食べたがるもの

正直なところデザインシンキングのworkshopとしては、時間配分が観光に多く割かれてしまったり、体系的に学ぶには少し物足りなかったのだけど、合宿生活のようにオーストラリアの方々、アチェの方々と一緒に一週間程生活出来て一人旅とは異なる経験が出来たのはとてもよかったし、アチェの街も好きになれた。

心配していた英語でのディスカッションも少し苦労した(特にシドニーの方の流暢なスペーキングはリスニングが難しかった)けど、まぁ何事も経験すればなんとかなるのかな?と思えるようにもなったのは自身に繋がったかな。

発表後にみんなと
お世話になった山代さん・久松さんと
お世話になったJoanneと山代さん・久松さん
打ち上げはココナッツジュースで乾杯

おまけ話

日本人は長期の旅行を終えて、日本に帰ると「和食が食べたい!」と言って、寿司やラーメン、味噌汁なんかを欲しがると思うのだけど、オーストラリアの方々は「ハンバーガーが食べたい!」とトランジット咲きのクアラルンプールで大騒ぎしていてこんなとこにもギャップがあるんだなと思った。


アチェでのworkshopを終えて次に向かうはインド。
一ヶ月ほどかけてインド全土を見て回ります。


0 件のコメント:

コメントを投稿